旅の始まり
「なにか、一生ものの【宝物】を見つけなさい」
そう言われたのはいつの頃だっただろう。

生まれてからずっと、家族と旅をしていた。
空を飛ぶことを覚え、大地を走り、剣を覚えた。
自分の中に足りないものなんて、何もなかった。

飛ぶことを覚えたのは3歳頃だろうか。5歳になると、今までの過保護が嘘だったかのように両親は放任主義へと変わった。
ある程度大きくなった子供より、あたらしく生まれた弟妹に手を取られるようになったせいだろう。
4つばかり年上の姉と、兄と慕っている幼馴染と一緒に他の旅人から剣や、薬草、生きる術を教えてもらうようになった。
なにかが足りない、そう思ったことなんてなかった。
歳が10を越えた頃に母親から「なにか、唯一つの大切なものを見つけなさい」と言われた。
それは、「物」ではなく「想い」なのだと母は優しく笑ったのを今でも覚えている。

15になると、両親にくっついて旅を続けるのではなく自分一人で何が出来るかを試したくなった。

幼い弟妹は、自分を引き止めたけれど。
空の向こうを知りたくて、何かが自分を呼んでいる気がして。
一人の不安よりも、新しい出会いへの歓喜。
大地の果て、空の果てがあるのなら…それを知りたいと思った。

両親と旅をしていた時よりも一日が終わることが早く感じるのは、きっと今が楽しいからなんだろう。
今までとは違う出会いは、自分の旅の道標になる。
なにかが変わりそうな気がする。
きっと、なにかが見つかる確信。
見上げれば、いつでも新しい空が広がる。
同じ空の下で、今はまだ見つけられない「たったひとつのもの」がどこかに在るんだろう。







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